腹(腑)に落ちる

私たちの頭の中にある『常識』や『当たり前』というのはとても強力なものです。思っている以上に、その概念に視野を狭められ、考え方を強制されてしまっています。

何かの本で読んだことですが、ゾウはあんなに大きな身体で力持ちなのにちょっとした杭に繋がれているだけで、逃げることもありません。これは小さくてまだ力もそれほどない頃に同じように杭に繋がれて、逃げようとして引っ張っても逃げることができないということが、頭に刷り込まれているからなのだそうです。本当は大きくなったゾウなら簡単に杭を壊して逃げられるような杭でも、『頭の中につくられた常識』がそうした行動を起こさせないのだといいます。

これも本で読んだことです。日本には風鈴という風流な音を響かせるものがあります。この日本には当たり前の風鈴ですが、当然、外国の方にはなじみがありません。そういうものの存在を知らないと、例えば風鈴の音が物理的に聞こえているはずでも、全く気がつかなかったりするそうです。

これらは頭の中の世界と現実の物理世界には実はかなりの違いがあるのだということを教えてくれます。日本人と外国の人では頭にある『常識』も『当たり前』も違うのですから、当然、同じフィールドで生きていても、全く違った世界に見えているはずです。

今度は私の話です。私はタバコをやめてそろそろ2年半になります。友人に教えられて吸い始めてからおよそ10年、何回か禁煙を試みましたが、半日も持ちませんでした(笑)友人は一度禁煙を始めると短くても3日、長ければ数週間を続いていましたので、自分は意思が弱いのだな…と思っていました。

『禁煙セラピー』という本は読むだけで、禁煙できるということでベストセラーにもなりましたが、私もこれでやめました。私の他にもこの本で禁煙に成功した人は多いかもしれません。タバコには依存性があって、時間が経つとどうしても吸いたくなるのですが、この本にはその依存性こそがタバコによって作られているのだと言うことが繰り返し書いてあります。吸いたくてすっているのように感じているのですが、吸わされているのだというわけです。常に吸うことに意識を奪われ、自分の意志で生きることを阻害されているのです。これを繰り返し、『なるほどねー』と口に出しながら読み続けます。

するとどうでしょう。ある時からタバコを吸うと吐き気がして、気持ち悪くなるのです。さらに吐き気とタバコを吸いたいという欲求がなくなり、1〜2日の多少の禁断症状を残して、禁煙達成!!人によっては禁断症状を紛らわすため食欲が異常に出てきますが、そんなこともなく何にも引きずることもなくやめられました。

 

人の頭の中で作られている『常識』や『当たり前』は蚊帳の外に抜ける前にはとても不安や苦痛を伴うものです。が、私はこの経験をしてから、本当の意味で、変わることの可能性をポジティブに感じられるようになりました。

変わる時は一瞬なんです。ある時を境に全身の神経系、ホルモン系が新しい世界に順応し始めます。私がある時からタバコを吸うと気持ち悪くなったのは、あれだけ止められなかったタバコを身体が拒否し始めたのです。

これが『分かる』とか『腹に落ちる』『気づきを得る』という言葉で言われていることだと、腹に落ちた時でした。頭の理解ではなくて、全身で感じて分かる瞬間。そうした瞬間から身体はそれに順応して一気に動き出します。こうなると変わるしかなくなるんですね。現在の世の中は便利になりすぎて、『自分』という存在自体が、頭で理解しているつもりでも、腹に落ちていないことだらけになっているように感じます。

なんで姿勢は悪くなるのでしょう?整体師の私はこんな質問にすり替えます(笑)

同じように考えれば姿勢が悪いことが身体で異常なことだと感覚できなくなっているだけの話です。本当は姿勢が悪くていいことなんでないんですけど、本当の意味で『腹に落ち』てないんですね。なんとしてもそういった変化を促していきたいと思っています。ちなみに私も何度も姿勢や身体の感覚の変化を体感しましたが、必ず筋肉痛や熱が出るなどの現象がありました。『前提』を変えていくということは、今までの使われ方が変わるので、それに要らない組織は清算されて、今まで使われていなかった必要な組織に負荷がかかり始めるということです。筋肉痛や熱などの現象はそれに伴って起こる代謝熱や破壊活動と思われます。

腹に落とすのに有効な刺激の入れ方があります。

①自分の物事の捉え方、感じ方をしっかり観察して今までの自分の『前提』を意識の上に乗せる

②ハッとするような瞬間的な強い刺激や衝撃、情報を入れる

③反復、もしくは持続性の刺激によって刷り込んでいく

①は内側を覗くということで『内観する』という言葉があります。自分の頭から出てくる考えや感情がどんなふうに出てくるのかをしっかり観ることで、自然に出てくる考えや感情に無意識に従うことからリリースします。人はとくに大脳の意識の回路が強く、影響を持っています。

刺激や情報の受け方も大切です。例えばカイロプラクティックという技術は、もともと瞬間の矯正で神経系の治療を狙う技術体系ですが、これは②に準ずる刺激の入れ方と考えられます。ポイントとしては『ハッとする』、『反復性』が大きな影響力があるということです。

タバコの例では、タバコを身体が欲しがってくる過程やその時の感情をまずはしっかり受け止めた上で、本の力を借りて③のようにその現象が実はタバコ自体が引き起こしているもので、自分の欲求ではないことを刷り込んでいたのですね。

特に禁煙を無理に促そうという意味はまったくありません。が私が大きな気づきを得た経験でしたので書いてみました。

身体も健康も『常識』や『当たり前』が強すぎて、苦しくなっていると感じることがしばしばあります。そういう身体も常に変わる可能性を秘めています。それは物事に対する感受性によっています。そしてそれは瞬間的に『腑に落ちる・気づきを得る』ことで起こるものなのです。そんなハッとするような情報を発信していければと思っています。

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